八代亜紀「舟歌」の歌詞の意味を考察!しみじみとした味わい

漁港昭和歌謡

この記事は、 八代亜紀「舟歌」の歌詞の意味を考察します。

1979年に発売されたこの曲は、港町の酒場を舞台に主人公の男性の想いをしみじみと情感豊かに歌い上げ、人気となりました。

それでは、八代亜紀「舟歌」の歌詞の意味を読み解きましょう。

八代亜紀「舟歌」はどんな曲

【舟歌】

アーティスト:八代亜紀

作詞:阿久悠

作曲:浜圭介

リリース: 1979年5月25日(テイチク)

「舟歌」は1979年5月に発売された八代亜紀の28枚目のシングルです。

八代亜紀の抒情的な歌声と、阿久悠の情景がありありと目に浮かぶような歌詞は、今も世代を超えて、多くの人々の心を掴んでいます。

惜しくも大賞には届きませんでしたが、1979年の第21回日本レコード大賞では金賞、第10回日本歌謡大賞では放送音楽賞を受賞しています。

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八代亜紀「舟歌」の歌詞の意味を考察

オレンジ色の電灯がぼんやりと滲む、隠れ家のような港町の居酒屋で、今夜も小さなドラマが始まろうとしていました。

馴染みの酔客たちが帰ったあとで、一人、新参者が酒を煽っています。

男は、短く刈り上げた胡麻塩頭をぼりぼりかくと、女将に「スルメ」とだけ、言いました。

 

「はいよ」

女将は慣れた手つきでイカを炙ります。

店の品は、決して多くも珍しくもありません。

しかし、すぐそばの港で採れた、新鮮な海産物が、この店の一番の売りです。

 

男がイカの剣先をしがむと、じゅわっと磯の旨味が滲みだします。

「うまいねえ」

男の満足げな声に、女将は薄く微笑むと、猪口に酒を注いでくれました。

年の頃は40半ばでしょうか。

縞の着物をこざっぱりと着こなしているところを見ると、おそらく若い頃は粋筋の女だったのでしょう。

 

にこやかに笑みをたたえているけれど、余計なことを聞いてこないところも、男は気に入りました。

やがて男も酔いがまわり、うつら、うつらしはじめると…。

「飲みすぎですよ」

そう言って、梅干しが入った昆布茶をさっと出してきます。

「すまねえ」

 

 

女将の半襟からのぞく白いうなじに、ふと記憶の中の、華奢な首筋が重なりました。

ーあの娘も銀杏返しに髪を結って、年の割に粋な格好をしていたなあ。

おぼろげに浮かぶのは、漁師として独り立ちしたころに、ほんの少しの間、愛し合ったの娘です。

年のころは18、19。まだ、ふっくらした頬のあたりにあどけなさが残る娘でした。

 

可愛らしい顔に似合わずに、太くよく通る声で地歌を歌い、その舞い姿はどっしりとした力強さがありました。

男と娘が結ばれたのは、座敷で顔を合わせてから、間もなくのことでした。

 

やがて二人は、娘を囲う旦那の目を盗み、何度も逢引をくりかえしました。

娘は、つぼみが花開くように、美しさを増していきました。

 

しかし、空が白み、沖のカモメが一斉に鳴きだすころ、男はいつも宿を出ていきます。

「いつも海がしけとったらいいのに。そうしたらあんたを海にとられんで済むけん」

そう言って、歯がみしながらすすり泣く娘を、男は心から愛おしいとおもいました。

 

しかし、ある夜明けのことです。

鏡台の前で、ぱたぱたと白粉をはたきながら、娘はぽつりと言いました。

「もう、あたしのこと呼ばんでな」

 

「なんでだ」

くぐもった声で男が聞くと娘はこちらを見ようともしません。

「あんた、本気になってるんだもの。旦那にばれたらどうなることか」と、つぶやきました。

娘の言葉を遮り、男は、がばっと布団から跳ね起きると、娘の肩をつかみ、言いました。

「おいらの嫁にこい」

 

ぴたりと娘の白粉をはたく手が止まりました。

そして、地歌の時よりも、もっと低く地を這うような声で、娘はつぶやきました。

 

「あたしもね、漁師の子なの。7人兄弟の末っ子。

姉ちゃんは、口減らしに遊女として売られたわ。

兄ちゃんは、漁にでたっきり帰ってこなかった。

海の男の女房なんて、まっぴらごめんよ」

さっと着物を着替えると、娘は手の甲で涙を拭いて、足早に出ていきました。

ーめんこいあの子はカモメになって、沖の彼方に飛んでった、ハァ、ダンチョネ、ダンチョネ…。

「ええ声ですね」

女将の言葉に、男ははっと我に帰りました。

 

どうやら、酔いに任せて、女将相手に思い出話をしていたようなのです。

「昔、惚れた娘っこに教えたのさ。俺の作ったダンチョネ節だ」

「そう」

 

港のほうから、汽笛が、長く悲しげに尾を引くのが聞こえました。

「ここはいい店だな。最近の店は、やれ歌番組だ、やれ特番だ、で、うるさくてかなわん」

 

「年の暮れですから。テレビを置いてる店のほうが流行るんですよ。」

そう答える女将の目は、どこか心あらずで、はるか遠くを見ているようでした。

 

どのくらいの時間が経ったでしょうか。

いつの間にか、男はカウンターに突っ伏して、高いびきをかいていました。

きつくつむった瞼には、涙が滲んでいます。

 

「風邪ひきますよ」

女将はそっと、奥から半纏をもってくると、そっと男の肩にかけました。

そして女将は、くるりと背中を向けて、呟きました。

「これだから、海の男は嫌いなんだ。酔い方が汚くて」

 

女将の頬に、一筋の涙が流れました。

「そんなにあたしに未練があるンだったら、なんで、あの時、無理やりにでもさらってくれなかったんだい」

 

女将のつぶやきは、男の耳には聞こえません。

やがて、背中が温まってひと心地ついたのか、男は静かな寝息をたてはじめました。

沖のカモメが、一日の始まりを告げるのは、もうすぐのことです。

 

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まとめ

八代亜紀「舟歌」の歌詞の意味を考察しました。

漁師である主人公の男性が酒場で飲みながら過ぎ去った日々、恋した女性のことなどをしみじみと語る内容でした。

八代亜紀の歌唱力が素晴らしく、そうした酒場の情景が目の前に浮かんでくるようです。

阿久悠(作詞)、浜圭介(作曲)、そして八代亜紀という3人の巨匠の生み出した昭和歌謡の名作のひとつだと思います。

何度聞いてもその度に素晴らしさに感動してしまいます。

 

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