この記事は、 三善英史「雨」の歌詞の意味を考察します。
1972年に発売されたこの曲は、哀愁漂うメロディと柔らかく甘い歌声が素敵です。
恋人の裏切りに耐え忍ぶ女性の気持ちを上品に表現して、人気となりました。
それでは、三善英史「雨」の歌詞の意味を読み解きましょう。
三善英史「雨」はどんな曲
【雨】
アーティスト:三善英史
作詞:千家和也
作曲:浜圭介
リリース: 1972年5月25日(ビクターレコード)
★チャート最高順位
週間2位、1972年度年間18位(オリコン)
「雨」は1972年5月に発売された三善英吏のデビュー曲です。
発売後、じわじわと売り上げを伸ばし、同年10月にはオリコン週間チャートの10位以内にランク入りします。
1972年度の年間シングルチャートでは第18位、売上枚数は38.8万枚のヒットを記録しました。
三善英史「雨」の歌詞の意味を考察
この曲の歌詞は、恋人に裏切られ、傘もささずに雨に霞(かす)む主人公の女性の姿が思い浮かぶようです。
「あの娘には、俺から別れてくれるように話してきたよ。綺麗に清算してきた。
そんな、嘘じゃないさ。…分かった。分かったよ。
俺の顔を見たら、本当に納得してくれるんだね?
そしたら、土曜の1時にいつもの店で会おう。」
恋人との電話が切れた途端、主人公の女性の全身から力が抜ける気がしました。
浮気をされたのは、これで二度目です。
別れようと思ったことは、何度もありました。
でも、彼の顔を見ると、つい、言うべき言葉を飲み込んでしまうのです。
彼女にとっては、若い男の体臭、硬い髪の毛の感触、彼女を包み込んでくれる大きな掌の温かさ、全てが初めて知るものでした。
その思い出を失う、と考えただけで身震いがするのです。
でも…。
ーまた、うやむやに誤魔化されるんだわ。
それでも、会いたい。
すでに、土曜日を待ち遠しく思っている自分がいます。
やがて訪れた土曜日の昼下がり。
約束の時間になっても、彼が来る様子はありません。
朝の晴天が嘘のように、空を灰色の雲が覆い、冷たい雨が道行く人の肩を濡らしています。
彼女のうつろな視線は、一つ、また一つ、赤や黄色の傘の花が開くのを捉えていました。
午後の3時。
空はさらにどんよりとして、雲が厚みを増しています。
雨足が強くなったせいか、通行人はまばらです。
彼女が喫茶店の軒下から出た途端、誰かの肘が当たりました。
「邪魔!」
一つの大きな傘の下、若い男と腕を組んで歩いていた娘が、振り返り様に、わざと聞こえるように悪態をついて、舌打ちしました。
それでも、主人公は微動だにしません。
彼が現われる様子も、一向にありません。
ーあの人に呼びだされたんだわ。今日、私と会うことを、こっそり喋ったんだ。
胸の中に、ざわざわと黒い嫉妬がわきあがります。
ーううん、別れた、って言ったもの。そうよ。別れたって…。
何度、自分に言い聞かせても、胸のざわつきは収まりません。
ある事実に気づいた瞬間、雷に打たれたように、彼女の目が見開き、頬に血が上りました。
ー浮気相手は、最初から私のことだったんだ。本命は、あの子だったのね。
「考えちゃダメ、考えちゃダメ!」
彼女は俯(うつむ)くと、小声で呟きました。
「騙された」「裏切られた」とは思いたくなかったから、今まで考えないように、ずっと蓋をしてきたのです。
自分が惨めな女であることを認めることになってしまうから…。
それでも、彼女の胸いっぱいにひろがった黒雲は、ずっしりとした鉛の塊になって、居座ります。
涙で景色が滲み始めた、その時です。
「お姉さん、一人?」
ガムを嚙みながら現われたのは、まだニキビ跡が目立つ、少年二人です。
「彼氏、待ってるの?」
「彼氏なんかほっといてさ、俺らと遊びに行こうよ。ほらほら、こんなに濡れちゃって、風邪ひくよ」
少年たちは唇の端に薄く笑みを浮かべて、彼女の気を引こうとします。
しかし、彼女は顔をそむけ、固く目をつむったまま、何も答えようとしません。
「あー、泣いちゃってるじゃん。ひどいやつだね。こんな綺麗なお姉さん、ほったらかしにしてさ。俺らならもっと大事にするよ、なあ」
そう言って、一人が上目遣いで彼女の目をのぞきこむと、やっと彼女は口を開きました。
「あたしはね、決してあたしを愛さない人しか好きにならないの」
その言葉に眉をひそめ、怪訝な顔をすると、少年たちは小声で「うわ、やば、ヘンなのに声かけちゃった」と悪態をつきながら、行ってしまいました。
空は少しずつ、薄暗さを増して、さらに雨脚が強くなりました。
ーあたしは、彼があたしを愛さないから、好きだったの。
何て皮肉なんだろう。
恋とは、何と悲しいものなんだろう。
乾いた笑いが彼女の口からこぼれました。
ひとしきり笑ったあと、彼女はガクリと肩を落としました。
恐らく、彼女から別れ話を切りだすのを、彼は待っているのです。
『大切な約束を裏切った俺を、嫌いになってくれたら、あいつだって後腐れなく俺を解放してくれるだろう。』
そんなところでしょうか。
彼女は、きゅっと唇を固く引き結びました。
ーあなたの思う通りにはならないわ。
私はあなたの恋人だもの。
あなたから、ちゃんと、さよならを聞くまでは、私、耐えて見せるわ。
やがて、雨は止み、星がひとつ、ふたつ、瞬きだしました。
彼女は、濡れてずっしりと重くなった服にもかまわずに、ふらり、ふらりと歩き出しました。
明日も雨は降るでしょうか。
それとも、このまま晴天に恵まれるのでしょうか。
明日の事など誰にもわかりません。
でも、彼女のなかでは、何があっても揺らがない決意が生まれたようです。
まとめ
三善英史「雨」の歌詞の意味を考察しました。
雨に濡れながら恋人との約束を頼りに、じっと待つ女性。
時間は過ぎていくも、彼の言葉を信じて待ち続けます。
やがて彼女は悟ります。
彼はもう来ないことを…。
溢れる涙と雨がまじり合います。
それは、彼女の心身を浄化してくれるかのようです。
やがて空は晴れ、彼女のもとに優しい太陽の光が届くことでしょう。
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