この記事は、 稲垣潤一「ドラマティック・レイン」の歌詞の意味を考察します。
1982年に発売されたこの曲は、稲垣の儚げで色気のあるハイトーンボイスと、秋元康の世界観が相まって、人気となりました。
それでは、稲垣潤一「ドラマティック・レイン」の歌詞の意味を読み解きます。
稲垣潤一「ドラマティック・レイン」はどんな曲
【ドラマティック・レイン】
アーティスト:稲垣潤一
作詞: 秋元康
作曲 :筒美京平
リリース: 1982年10月21日(EXPRESS)
★チャート最高順位
週間8位、1983年度年間38位(オリコン)
「ドラマティック・レイン」は1982年10月に発売された稲垣潤一の3枚目のシングルです。
この曲の作詞は秋元康、作曲は筒美京平が手がけました。
後にダークダックス、タケカワユキヒデ、JUJUなどにもカバーされています。
稲垣潤一「ドラマティック・レイン」の歌詞の意味を考察
いつまでも止まない雨のなか、都会の夜にひっそりと始まる大人の恋。
こっそり、そのドラマを覗いてみましょう。
季節は、緑萌ゆる時期が駆け足で通り過ぎ、天の恵みが若葉を艶やかに濡らす梅雨のころ。
灰色のビルがひしめく北国のこの街に、冷たい雨が降り注ぎます。
徐々に強くなる雨の音、黒く光るアスファルトを踏みしめる二つの影。
車のヘッドライトが、若い男女の姿を捉えました。
道路端を歩く女性は、ふとライトに気づくと、足を止め、眩し気に目を細めながら、髪をほどきました。
傘を握る男の鼻先に、ふわりと紫陽花(あじさい)が香ります。
しかし、辺りを見回しても、紫陽花の花は見当たりません。
(ああ、髪の香りか…)
男が胸いっぱいに、あえかなる香りを吸い込めば、濡れる髪に指を通す彼女の頭越しに、稲妻が走るのが見えました。
黒い雨傘の下、ヘッドライトが二人の姿を照らすたび、彼女の挑むような瞳が、彼を釘付けにします。
「新しい恋人が相手でも、同じ仕草で誘うのか?」
「彼とは、もう終わったの」
「嘘をつけ」
「本当よ」
遠くで、低くごろごろと、雷鳴が轟きます。
(これじゃ、陳腐な映画のワンシーンだ。やまない雨をバックに、情をほだされて、よりを戻すかつての恋人たち。)
自嘲気味に微笑むと、彼は吐き捨てるように呟きました。
「寂しさを埋めるだけならお断りだ」
「はっきり言うのね」
「また逃げられるのは、ごめんだからね」
彼のやや神経質そうな横顔が、くっきりと闇に浮かび上がりました。
「…『裏切られる』って、言わないんだ」
「所詮は色事だろう、被害者ぶるのは粋じゃない。」
「寂しさを埋めるだけってこと、否定はしないわ。嘘つき呼ばわりされるのは嫌だもの。
でも、あたしたち、所詮は、男と女よ。そんな始まりがあっても良いんじゃない?」
次の瞬間。
雨傘がふいに彼の手を離れ、地面に転がりました。
通り過ぎる車の泥がはねるのも構わずに、彼女は唇を押しつけてきます。
彼の首に力いっぱいしがみつくと、堰を切ったように、早口でまくしたてました。
「あたしは、あなたの高い頬骨が好き。切れ長の目が好き。
薄い、引き締まった唇も好き。全部、全部、好き。
そして、この骨ばった手も好きなの。この手で触れてほしい、って思うの。」
彼は、無意識に、彼女の腰を強く締め付けていた腕を、やっとの思いで引き離しました。
「…分かったよ、…うん、分かったから…」
そう答えるのがやっとでした。
彼の紺色のコートも、彼女のベージュのものも、雨を吸ってずっしりと重くなりました。
かすかに身震いすると、彼女は車のライトから身を隠すようにして、彼に身を寄せます。
これから始まる、体の芯を貫くような官能に思いをはせながら、互いに無口になる十数分。
彼は、このひと時が好きでした。
彼は、軽く指先を絡めると、彼女の手をそのまま自分の頬に押し当てました。
あの頃よりも幾分、節が目立つようになった彼女の指。
次の瞬間、目もくらむような光と、車のクラクションに、思わず二人は体を引き離しました。
ミニバンの窓から、まだ10代とおぼしき少年が顔を突き出すと、すれ違いざまに口笛を拭きました。
「ったく…、大人をからかうのも、いい加減にしろよ」
悪態をついた途端に、羞恥心が押し寄せてきます。
(ああ、まただ。…この感覚は)
初めての恋を知った少年の頃から、いつも誰かを愛するたびに、彼には、背徳感がつきまとっていました。
誰かに背中から監視され、咎められるような気恥ずかしさと、原始的な罪の意識。
『恋って、心が穢れることなんだ』
誰にも言えない秘密ができてしまったあの日も、紫陽花の香る梅雨のさなかでした。
あの日、少女は、玄関の前で、華奢な彼のうなじに腕をまわし、何度も口づけをしました。
初めて知る女性の唇の柔らかさに、頭の芯が痺れるような感覚を覚えた、あの日の恋。
一方で、もう無垢な少年でいられないことに、泣きたくなるような悲しみを覚えたものでした。
彼は大きくかぶりを振ります。
(アダムとイブだって、神の言いつけに背いたから、愛することの大切さに気づいたんだ。
誰にも愛の価値なんて測れやしない。ましてや、恋の罪を裁くなど…)
「どうしたの?」
彼女の不安げな声に我に返ると、また紫陽花が強く香りました。
紫陽花の花言葉は、「移り気」「浮気」「無常」など…。
「ううん」
彼の問いに、不思議そうな顔をして彼女が答えます。
「私の匂いよ」
悪戯っぽい微笑みを浮かべる彼女の瞳を、彼は真顔でじっと覗き込んでいましたが、やがて、つられるように彼の頬にも笑みが広がっていきました。
彼女の手を握ると、二人は雨のカーテンの向こうに消えていきました。
まとめ
稲垣潤一「ドラマティック・レイン」の歌詞の意味を考察しました。
雨降る都会の夜を舞台に繰り広げられる危険な香りのする男女の恋の物語。
稲垣が雨に対して、「もっと強く 降り注いでくれ」と祈るように歌うも、一方で「雨の音さえ 隠せぬ罪」ともあり、ミステリアスな感じがします。
雨の降る夜にじっくりと聞いてみたい曲ではないでしょうか。
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