この記事は安全地帯「恋の予感」の歌詞の意味を考察します。
1984年、「ワインレッドの心」に続く、安全地帯を代表する名曲となった「恋の予感」。
玉置浩二の色気に満ちたハスキーヴォイスと、哀切なメロディライン、井上陽水が綴る繊細な女心の心の柔らかなところをそっと甘噛みされるような、官能性を感じさせる歌詞。
それでは、安全地帯「恋の予感」の歌詞の意味を読み解いていきましょう。
安全地帯「恋の予感」はどんな曲
【恋の予感】
アーティスト:安全地帯
作詞:井上陽水
作曲:玉置浩二
リリース:1984年10月25日(Kitty Records)
★チャート最高順位
週間3位、1985年度年間23位(オリコン)
「恋の予感」は1984年10月に発売された安全地帯の7枚目のシングルです。
安全地帯は 1973年に玉置浩二(ボーカル)、武沢豊(ギター)を中心に北海道の旭川市で結成されたロックバンドです。
代表曲には「ワインレッドの心」、「悲しみにさよなら」、「碧い瞳のエリス」及び、この「恋の予感」などがあります。
「恋の予感」は1985年度のオリコン・シングルチャートでは年間ランキング23位、販売枚数は33.3万枚を記録しました。
安全地帯「恋の予感」の歌詞の意味を考察
「なぜ なぜ」と子供のような素朴な問いかけから始まるこの歌詞は、コケティッシュなしらべとは裏腹に、ひたむきな純粋さを感じさせます。
大人になればなるほど、余計な飾りをそぎ落として、心を生まれたままの姿にできるのでしょうか。
それとも、恋することで、人はみんな、子供に戻るのでしょうか。
大人の女性は心の奥に、臆病で傷つきやすい少女の『私』を秘めています。
井上陽水が書く女性たちには、隠れた少女性をみてとることができます。
この歌も然りです。
もつれあう少女の『私』と大人の『私』は、まるで絡まった絹糸のようです。
私たちの手で解きほどいていきましょう。
真摯に恋をする女性の美しさは、筆舌につくしがたいものがあります。
見るものにおそれを抱かせるような、すごみのある美しさです。
花が短い命をふりしぼり、愛の証を求めて咲き乱れるように、恋する女性の美しさも百花繚乱という言葉がふさわしく思われます。
牡丹が咲いたように華やかになるひと、溢れるような慈愛を感じさせるひと、崩れた色気を漂わせるひと。
この女性の美しさには、冷たくはかないものを感じます。宵闇に溶け込む藍色の花です。
だから、誰も彼女には気づくことはありません。
「私を見つめて、そして愛して」
彼女の悲壮な叫びは夜風にかき消されるばかりです。
恋の始まりは、心弾むようなものばかりではありません。
大人の女性は恋が劇薬になることを知っています。
ひたむきに愛すれば愛するほど、生涯、痕を残すような火傷を負う事もあるのです。
しかし、もう誰も愛さない、そう誓っても恋は意志と裏腹に、落ちてしまうものです。
彼女はどのくらい、眠れない夜を過ごしてきたのでしょうか。
夜のとばりはずるく、残酷です。
嫉妬や苛立ち、目をそむけたくなる感情をビロードのベールで覆い隠してくれますが…。
だからといって孤独な心に寄り添うことはありません。
夜の精は、無邪気で意地悪です。
鞠のように、ころころと転がる心にじゃれついて、鋭い爪をたてるのです。
彼女は痛みに声を上げるでもなく、されるがままに身を預けます。
大人の女性は、こうして永い夜との付き合い方を覚えていきます。
「どうして素直になれないの?」
彼女に問いかけているのは誰でしょうか。
夜空に浮かぶ三日月でしょうか。
それとも、愛を乞うもうひとりの自分でしょうか。
この歌では、彼女の心情が語られることはありません。
しかし歌詞に散りばめられた夜のモチーフは、彼女の心象風景そのままであり、この恋の悲しい結末を予感させます。
おそらく、彼女はそれを誰よりもよく分かっているのでしょう。
報われぬ恋をするには、彼女は少しだけ優しすぎたのかもしれません。
誰かを傷つけることもいとわずに想い人の胸に飛び込めるほど、幼稚な振舞いができたのなら…
ひとり苦しまなくても良かったのかもしれません。
心を震わす恋の予感に、彼女は、なすすべがありません。
理性とは裏腹に、唇は熱を帯びてぷっくりとふくらみ、瞳は涙の膜を張ってきらめきます。
それは夜の精しか知らない顔です。
彼の吐息に冷やされた、ほの甘い香気は、愛しい誰かのもとへと届く前にたちまち消えてしまうのでしょう。
ここである疑問が頭をもたげます。
彼女が待っているのは、本当に想い人なのでしょうか。
命を終えた花びらがはらり、はらりと落ちるように…。
この恋が誰にも知られず、ひっそりと息絶える日を、待ち続けているようにも思えます。
藍色の花、リンドウの花言葉は「甘い夢」です。
甘い夢。
叶わぬ希望という星の間を、たゆたうことしかできない彼女を思うと、この言葉はシニカルに響きます。
いつかは朝の光、小鳥のさえずりが、恋の終わりを告げに訪れます。
甘い悪夢から解放された時、彼女は何を思うのでしょうか。
「恋の予感が ただかけぬけるだけ」・・。
まとめ
安全地帯「恋の予感」の 歌詞の意味を考察しました。
この曲の歌詞は、少女の『私』と大人の『私』を揺れ動く主人公の心情を玉置浩二のセクシーな声で甘く切なく歌い上げます。
ところで「恋の予感」は井上陽水が歌うversionもあります。
こちらは、さらりとした肌触りで、メロディも軽やかにステップを踏むかのようです。
もしかしたら、主人公の手を取りくるくると躍らせる、いたずらな夜風の目線で歌われているのかも知れません。
風合いの異なる二つの「恋の予感」に思いをはせて、聴き比べてみるのも面白いかも知れません。
1988年、安全地帯は「プルシアンブルーの肖像」という曲をリリースしています。
彼らの、胸を焦がすような恋の歌には、艶やかな深い青がよく似合います。
青い炎は、赤い炎よりはるかに高い熱を持つと言われます。
哀愁漂うストリングスの音色と、玉置浩二の嗚咽をこらえるような声の張り…。
抑えても抑えても、にじみ出る情熱をそのまま形にしたかのようです。
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