この記事は、 岩崎宏美「シンデレラ・ハネムーン」の歌詞の意味を考察します。
1978年に発売されたこの曲は、密やかな恋愛を続ける女性の心情をテンポ良く、優れた歌唱で表現して人気となりました。
それでは、岩崎宏美「シンデレラ・ハネムーン」の歌詞の意味を読み解きます。
岩崎宏美「シンデレラ・ハネムーン」はどんな曲
【シンデレラ・ハネムーン】
アーティスト:岩崎宏美
作詞:阿久悠
作曲:筒美京平
リリース: 1978年7月25日( ビクター音楽産業)
★チャート最高順位
週間13位、1978年度年間89位(オリコン)
「シンデレラ・ハネムーン」は1978年7月に発売された岩崎宏美の14枚目のシングルです。
デビュー当時から、圧倒的な歌唱力を誇る岩崎は、この曲で清純な少女から艶を帯びた大人の女性へと成長しています。
岩崎宏美「シンデレラ・ハネムーン」の歌詞の意味を考察
今回の舞台は、都会の片隅の小さな部屋。
6畳のワンルームですが、この歌の主人公の女性にとっては大切なお城です。
若い女性の一人暮らしらしく、小綺麗に整えられた白い机には、可愛らしい小物が飾ってあります。
そんな部屋には似つかわしくない、無骨な男が一人、所在なさげにピンクのクッションに腰を降ろしています。
男はふっと、腕時計に視線を落としました。
「22時か。やばいな」
「もう少しだけ、一緒にいられないの?」
ワイングラスを運んできた主人公の余勢をを手で制します。
「よしてくれよ。昨日も嫌味を言われたばかりなんだ。『残業、残業って毎日、午前様じゃないの。あなた、本当に働き者ね』って」
そう言って、男は、水色の煙草の箱の奥を、わざとらしく覗き込みました。
「ちぇっ、これ一本だけかよ」
「煙草を吸うのなら、ベランダで吸って」
「馬鹿、人に見られるかもしれないんだぞ、職場で噂になったらどうする気だ」
彼女は床に座り込むと、くるりと男に背を向けました。
「いいわよ、もう。噂になったっていい。どうせ、辞めようと思ってたし…」
男は、ため息をつくと、煙草をポケットにしまいこみました。
「拗ねるなよ。いい子だから、機嫌直せ」
そう言って、ぽんぽんと彼女の頭を子供のように叩く彼に、おもわず彼女は、しがみつきそうになりました。
彼女の薄茶色に乾いた口紅の色は、そのまま彼女の心の疲れを現わしているようです。
ー私の愛だって、とうに乾いているのに。
なぜ、私はこの男にしがみついているんだろう?
玄関で、おやすみのキスを交わすと、ほんの少し開けた窓から吹き込む夜風が、二人の唇から体温を奪っていきました。
「駅まで送るわ」
「風邪ひくぞ」
「平気。少しでも一緒にいたいの」
いつも、彼がマンションを出て数分してから、彼女はそっと後を追いかけていきます。
薄手のストールを羽織っていても、季節の変わり目のせいか、夜風の冷たさが身に沁みました。
商店街はすでに軒並みシャッターを閉めかけています。
彼はふと花屋の前で立ち止まり、店に入ると花束を買って彼女に手渡しします。
「はい、どうぞ、お姫さま」
これには、彼女も苦笑するしかありません。
ーいつもそう、シリアスな展開になると、こうやっておどけて誤魔化すのよ。
「お姫様って何よ。白雪姫?眠り姫?」
「シンデレラだよ。夜ふけには魔法がとけちまう、俺のお姫様だ」
「馬鹿」
笑いながらも、彼女の目にはうっすら涙が滲みます。
「そしたら今夜は、王子様とのハネムーンね」
「そうだな、今夜は綺麗な満月だし、まさにハニー・ムーンだ。美しいお姫様、私と月旅行などいかがかな?」
「…お気楽な人ね。あなた、今日は、少し飲みすぎたんだわ。こんな日々がずっと続く保証なんてどこにも無いのよ?」
「俺はお前ほどシニカルじゃないからね。今、この瞬間が幸せだったら、俺は、人生上々だよ」
男を駅まで見送った後、彼女は一人、マンションに戻ります。
熱いシャワーを浴びた後、彼女は半渇きの長い髪をなびかせながら、水槽で泳ぐ熱帯魚に餌を与えました。
彼女のいつもの日課です。
ー幸せ、か。真面目に考えたこと、無かったな。
正確には、真面目に考えることが怖かったのです。
だいたい、彼だってどれだけ真剣にその言葉を口にしているのかは分かりません。
彼女が将来のことを口にすると、いつもふざけてみせる彼。
いつしか、彼女も、二人の未来を思い描くのはやめました。
ーあなたといて、幸せじゃない、っていったら嘘になるけど、胸を張って「あなたさえ傍にいたら幸せです」とも言えないわ。
物思いに耽りながら、ぱちん、ぱちんと、足の爪を切っていると、親指のペディキュアが、かなり剥げていることに気が付きました。
彼につま先を見られても恥ずかしくないように、丁寧に手入れしたつもりだったのに。
いつの間に剥がれてしまったんだろう。
ーまあ、いいか。
そう思った自分に、思わず彼女は身震いしました。
彼と出逢った頃の私は、こんなに怠惰な女じゃなかった。
ーこうやって、私たちの関係は、きらめきを失って、澱んで、所帯じみていくのかしら?
彼女は重い溜息を吐き出しました。
ーあたしたち、今が潮時かもね…。
夜明けはまだ遠く、彼女の眠れない夜もまだまだ続きそうです。
まとめ
岩崎宏美「シンデレラ・ハネムーン」の歌詞の意味を考察しました。
主人公の女性が、男性と密やかに行う恋愛の様子が描かれています。
日暮に始まり、夜更けに別れる二人のあいびき。
シンデレラのように夜中の12時がタイムリミットになっているのかもしれません。
彼には自分の家に帰らなくてはならない事情があるのでしょう。
そして彼の方は、今では惰性で彼女と会っているようにも感じられます。
当初は違っていたのでしょうが…。
彼女のほうも彼との逢瀬を重ねても心から楽しめていないようです。
彼女は彼との関係はいつまでの続けてはいけないことに気がつき始めています。
この先、彼女が自身の心の声に素直になり、幸せをつかんで欲しいものです…。
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