この記事は、柏原芳恵「春なのに」の歌詞の意味を考察します。
1983年に発売されたこの曲は、卒業による片思いの人との別れをしっとりと抒情的に歌い、時代や世代を超えて人気となりました。
それでは、柏原芳恵「春なのに」の歌詞の意味を読み解きましょう。
柏原芳恵「春なのに」はどんな曲
【春なのに】
アーティスト:柏原芳恵
作詞・作曲: 中島みゆき
リリース: 1983年1月11日 (フィリップス・レコード)
★チャート最高順位
週間6位、1983年度年間31位(オリコン)
この歌は1983年1月に柏原芳恵の12枚目のシングルとしてリリースされました。
現在でも、卒業ソングの定番として、世代を超えて、長く歌われ続けています。
柏原の愁いと色香を帯びた可憐さは、中島みゆきの描く、影のある少女像にしっくりとはまりました。
柏原自身も抒情性の強いしっとりとした歌声で、中島の世界観を丁寧に表現しています。
柏原芳恵「春なのに」の歌詞の意味を考察
さて、「春なのに」のせりふに続く、涙の粒にかき消された言葉は何だったのでしょうか。
瞼を閉じて、耳を澄ませてみれば、まだうすら寒い晴れた日の、懐かしい学び舎と校庭が浮かんできます。
そこにいるのは、いつかの懐かしい顔ぶれの、少年少女たち。
そして、その喧騒のなかに、この歌の主人公である、あの娘がたたずんでいるのです。
ー友達と、恋人の境界線はどこにあるのでしょうか。
「先輩と付き合ってるんでしょ?」
そう、突然、友達に耳元で囁かれたときの微かな優越感と、それを上回る言葉にできない惨めさ。
「ううん、友達。ただの友達よ」
「ほんと?嘘ついてない?」
友達は、まつ毛の長い、くりくりした目を大きく見開くと、彼女の瞳の奥を覗き込みます。
「ほんと」
「じゃあ、あたし、告白しちゃおっかな。先輩の顔を見られるのも、今日で最後だし」
そう言って、卒業生の群れへ、駆け出していく友人の背中を、彼女は寂しげに見つめていました。
彼女の手には、彼の詰襟の第二ボタンが握られています。
-さすがに、あの人だって「ボタンなら、あの子にあげたよ」なんて言わないだろう。
それぐらいのデリカシーは持ち合わせているでしょう。
急速に冷えていく心と裏腹に、また、乾いたはずの涙が滲んできました。
「2年生、何してる!教室に戻るぞ」
先生の呼び声に、目頭を拭うと、少女は校舎に向かって駆け出していきました。
一昨年の夏、うだるような熱気の美術室のなか。
絵筆を握る彼の、うなじにかかる、柔らかそうな髪の毛を、彼女は熱のこもった目で見つめていました。
いつから好きになったのか、それは覚えていません。
ただ、部活の帰り道、二人で重いカンバスを抱えて歩いたこと。
デッサンのモデルを頼まれたこと。
そして初めて喫茶店に誘ってくれた日のこと。
それは、昨日のことのように鮮明に覚えています。
喫茶店を出てすぐに、通り雨に降られたときに
「走るよ」
とっさに手を握られたときの、思いのほか熱い体温。
その日は、一晩中、彼女は眠ることができませんでした。
それなのに。
「あたしって、結局、先輩の何だったんですか?」
「別に好きな子じゃなくても、手を握る。」
「先輩って、そういう人だったんですね。見損ないました」
そう言えたなら、少しは胸のつかえも降りたかもしれません。
でも、彼女はもう、わかっています。
恨み言をぶつけても、きょとんとした顔をされて、すぐにそれが嫌悪の表情に変わることを。
「-同じクラスの子でさ、こっちは全然その気もないのに、変に誤解されちゃって。
はっきり断ったら、『ひどい』って泣かれちゃった。
ひどいのは、どっちだよ。…ありがた迷惑なんだよな。ああいう子」
苦笑いしながら、そう言って珈琲を悪戯にかきまぜていた先輩。
胸をよぎった一抹の不安を打ち消すように…
『こうして誘ってもらえる私は特別』
そう、自分に言い聞かせていた1年間でした。
ー髪を伸ばしていたほうが、俺は好きだったな。
俺、小柄で華奢な女の子が好きなの。
甘いもの苦手なんだよね。このチョコレート、貰い物だけど、君にあげるよ。
なにげない彼の言葉に一喜一憂して。
最後まで聞けなかった、「好きな人はいるんですか?」の一言。
最後まで言えなかった「ずっと好きでした」の一言。
意気地なしな自分のままで、終わりたくなかったから、勇気を出して、言おうと思ったのに。
せめて、「ごめん、好きな子がいるから、つきあえない」
はっきり、そう言ってくれたなら、あなたと過ごした2年間は、きっと綺麗な思い出に出来たのに。
思春期の少年は、鈍感ゆえに残酷です。
興味関心が向くのはいつも、自分のことばかり。
その愛ですら、身勝手で独りよがりです。
しかし、その残酷さは、果たして少年特有の物でしょうか。
彼女は、ボタンを叩きつけようとしましたが、思いとどまり、力なく腕を下ろしました。
夢にまでみた愛の証は、今ではただの色褪せた、傷のあるボタンにしか見えません。
ー男の人の優しさは、いつだって、ずるくて、生温かく、心地いい。
彼女が、そのことにはっきり気づくのは、この学び舎を去った後。
もう少し先の話です。
まとめ
柏原芳恵「春なのに」の歌詞の意味を考察しました。
憧れの先輩が卒業により遠く離れていってしまう主人公の少女。
これまで彼に近づくことは出来ましたが、自分の気持ちを正しく伝えることができずに終わってしまった。
今更、自分から強く出ることもできない…。
いつもなら気持ちを明るくさせてくれる春ですが、この春は涙がこぼれ、ため息ばかりが出てしまう彼女。
彼女のつらい気持ちはもうしばらくは続きそうですが…。
しかし、そう遠くない時期に、深い悲しみの底には「希望」という名の新芽が芽吹いていることでしょう。
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