この記事は、テレサ・テン「つぐない」の 歌詞の意味を考察します。
「アジアの歌姫」と呼ばれ、今でも多くのファンに愛されるテレサ。
「つぐない」は1984年に発売された彼女の代表曲のひとつです。
そんなテレサ・テン「つぐない」の歌詞の意味を読み解きましょう。
テレサ・テン「つぐない」はどんな曲
【つぐない】
アーティスト:テレサ・テン
作詞:荒木とよひさ
作曲:三木たかし
リリース: 1984年1月21日(トーラスレコード )
★チャート最高順位(オリコン)
週間6位、1984年度年間42位、1985年度年間58位
「つぐない」は、テレサ・テンの14枚目のシングルであり、1984年に発売されました。
シングル売上は44.2万枚(オリコン)を記録する大ヒット曲となりました。
テレサ・テン「つぐない」の 歌詞の意味を考察!
生涯、古風な日陰の女を歌い続けてきたテレサ。
しかし、彼女の一連の歌から見えてくる女性像は、はかなげではあっても、凛とした芯の強さを感じさせるひとです。
この「つぐない」からも、互いのこれからのために別れを選ぶ、女性の優しさと厳しさが滲み出ています。
しかし、同時にこの歌からは、女性の愛の深さゆえの、怖さや業のようなものも感じるのです。
歌詞を考察することで、その恐怖の正体が浮かび上がってきます。
テレサの歌には、木枯らしが吹く晩秋の情景がよく似合います。
この季節になると、ふと郷愁をかきたてられる人も、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
幼いころに兄弟で分け合ったキャラメルの箱だったり、子供の頃、親に連れて行ってもらった港の景色だったり、きらめく記憶の扉を開く鍵は、人によって様々です。
いわし雲に覆われた夕焼けの空、カーテンから透けるあたたかな陽ざしも、そのひとつかもしれません。
ノスタルジックな感傷は、荒れてささくれだった心をなだめ、癒してくれる力があります。
しかし薬は使い方をひとつ間違えれば、毒にもなるものです。
甘く香ばしい郷愁は、いつしか、あなたを捕らえる蜘蛛の糸となり、いつまでも夢とうつつの境目をさまよい続ける。
そんなことにもなりかねません。
陽だまりのような彼の匂い、この一言で彼女にとって、彼にどれだけ癒されていたか、心許せる存在だったのかが伝わってきます。
しかし、彼女はこの先、彼と共に未来を歩もうとは思いませんでした。
最初は些細な喧嘩だったのかもしれません。
数日もたてば「ただいま」と、何事もなかったかのように帰ってくるかもしれません。
ただ、彼女はもう気づいています。
いつものように食卓を囲み、何気ない話に顔をほころばせ、背中をくっつけるようにして眠りについても、彼の心は、ここにないことを。
彼女は彼に別れの言葉をつげず、書置き一枚残さぬまま、ひとり静かに部屋を出ていきます。
残された壁の傷が象徴するように、明日も変わらぬ日常が始まります。
彼女が消えた、という事実を除いては。
彼の前から姿を消しても、彼女は至って健気です。
もう若くないのだから、体をもう少し労わってよ。
あなたは人がいいから、いつまでも一人にしておくのは心配だわ。
しっかり者の気立ての優しい子と一緒になって。
それは、独り立ちする我が子を思う母の気持ちに、よく似ています。
愛すれば、愛するほど、強い母性を抱くのは、女性として生まれた者の性(さが)なのかもしれません。
しかし母の愛は、時として相手を支配し、自立する気力を奪う危険性も秘めています。
彼の心変わりを一言も責めず、物わかりの良い健気な女性のまま去ったことで、おそらく彼の中では、いつまでも綺麗な思い出として残り続けるでしょう。
例え、新しい出会いがあったとしても、記憶の中の彼女を超える存在は、現れないかも知れません。
ここから、愛を償う、という言葉の意味が少しずつ明らかになってきます。
先述した郷愁のように、甘く柔らかく、口当たりの良いものは、大概、中毒性を秘めているものです。
彼女も、自分の愛情が彼を絡めとり、身動きできなくさせていることに気づいていたのでしょう。
あなたを愛してるから、自由にしてあげるわ。私がいたら、きっとあなたも私も駄目になる。
エゴイズムと慈愛、理性的な判断は、かならずしも分離し相反するものではありません。
寧ろ、混ざり溶け合い、混沌としたひとつの塊の体をなしていることのほうが多いものです。
自由にしてあげる。
でも、私を忘れたら許さないから。
彼女の振舞いが、彼にどれだけの爪痕を残したのかは分かりません。
しかし、今の彼女にとっては、どうでも良いことです。
彼は、これから生涯、私の知らない誰かを抱くたびに、私の匂いを思い出すかもしれない。
そのぐらい許されても良いでしょう?
ペシェ・ミニョン(とるにたらぬ小さな罪)よ。
全く無き者にされるなんて、虚しすぎるわ。
そんな彼女は、彼とのしがらみが何ひとつない街で、明日を迎えようとしています。
テレサの一連のヒット曲は、令和の私たちからみれば「可愛らしいだけの、都合のいい女」に聴こえることもあるでしょう。
しかし、視点を少し変えれば、そこに女性の執念、たくましさ、したたかさを見てとることもできます。
「つぐない」の彼女は、もしかすると囲われる身だったのかもしれません。
しかし哀れな籠の鳥では終わらない、女性のプライドの面目躍如といったところでしょうか。
まとめ
テレサ・テン「つぐない」の 歌詞の意味を考察しました。
日本における芸能活動で、復帰作となったこの曲は、第17回日本有線大賞、全日本有線放送大賞の2冠入賞を果たします。
そして、「愛人」「時の流れに身をまかせ」と並び、テレサの三部作として、今も高い評価を受けています。
1976年にリリースした「空港」を、あどけなさを残しながらも艶やかに歌い上げたテレサは、やがて大人の女性になって、日本に再び帰ってきました。
聴き比べると、声に深みと心地よい苦みが加わり、表現力も一段と豊かさを増しています。
テレサ・テン「つぐない」はこれからも多くの人々の心をつかんでいくことでしょう。
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