この記事は、アリス「チャンピオン」の歌詞の意味を考察します。
1978年12月に発売されたこの曲は、一人の天才ボクサーの栄光と苦悩をテーマにしたもので、多くの人々の心をつかみました。
それでは、アリス「チャンピオン」の歌詞の意味を考察していきましょう。
アリス「チャンピオン」はどんな曲、メンバーは?
【チャンピオン】
アーティスト:アリス
作詞・作曲:谷村新司
リリース:1978年12月5日(エキスプレス)
★チャート最高順位
週間1位、1979年度年間8位(オリコン)
「チャンピオン」は1978年12月に発売されたアリスの14枚目のシングルです。
アリスは1972年3月にレコードデビューした3人組のフォークグループ。
谷村新司(ボーカル&ギター)、堀内孝雄(ボーカル&リードギター)、矢沢透(ドラム)。
1979年度のオリコン・シングルチャートでは年間ランキング8位、販売枚数は78.0万枚を記録しました。
アリス「チャンピオン」の歌詞の意味を考察
「チャンピオン」の歌詞は一度聴いただけでもすぐにボクシングのチャンピオンが再起をかけ試合に挑んでいく物語とわかります。
この曲は実際のボクサーがモデルです。
ボクサーなどのアスリートだけでなく、ビジネスマン、職人、学生にもどこか自身を投影できる“何か”があります。
目標に向け、努力に努力を続けたことのある人なら、この曲は必ず響くものがあるのでしょう。
この詞に語られている彼はボクサー。
その男に敵はなし、一度は不死身の男と言われた伝説のチャンピオンです。
けれども一度頂点にたどり着いてしまえば、その上はありません。
チャンピオンであり続けるしかありません。
誰かを超えて頂点に立ったように、いつか誰かが自分を超えていくものです。
それがチャンピオンのさだめ、生物のさだめ。
アスリートに限らず、一般の人々の生活の中にもいつか王座を去らねばならない“トップのさだめ”は存在します。
動物の社会でもそれはあります。
トップを勝ち取った猿山のボス猿にもライオンのリーダーにも、いつかその座を他者に奪われる運命と共に生きて行くのです。
この「チャンピオン」の詞にある男は、一世を風靡した時を過ぎ、栄光の時よりも年を取ってしまったのでしょう。
とはいえ、諦めきれない何かが、伝えたい何かがあったのでしょう。
「やめてもいいんだ」と周囲が言葉にならない気持ちで腕を掴みますが…
彼の意志は強く、仲間の手を振りほどき対戦相手が待つリングへと進みます。
たとえ、ここで再起不能になって命をなくそうと構わないという覚悟で立ち上がります。
目の前に現れた若き挑戦者に勝るのは知識と経験と強い意志だけ。
体力も歳と共に下降線になっています。
昔、彼が王者となった頃と同様に、若き挑戦者も彼を超えるために苦しい試練を乗り越え屈強な身体と精神で挑んできたのです。
けれど彼にとってはそんなことは取るに足らないこと。
心配する周囲を気遣い、ふと振り向きガッツポーズ!
寂しく笑って「俺は負けない」。
それは、頂点へ導き再び挑戦する自分を支えてくれていた周囲への感謝だったのでしょう。
その感謝に周囲は「もう一度、立ち上がって王者になれ!」と声援で送り出すことしか出来ません。
大きな拍手の中、彼は堂々とリングに上がります。
「オマエは王の中の王だ!」彼の心の声であり、見守って来た周囲の声です。
彼はその言葉を呪文のように頭の中で繰り返しながら、今までの全ての力を最大限に発揮します。
王者の戦いを王者として成し遂げるために。
しかし、伝説の男とはいえ下降線を描く彼と、昇りつめる若き挑戦者には大きな力の差はあったのです。
がむしゃらな若き力の前で王者だった男は歯が立ちません。
辛うじて応戦するしか出来ません。
血に染まるマットに崩れ落ちる男。
血なのか?涙なのか?
痛いのか?苦しいのか?
…いえ、嬉しいのかもしれません。
意識が朦朧とする中でも、チャンピオンの条件反射なのか?
まだ彼は立とうとします。
もう立たなくていい!
これ以上は…神よどうか、彼の身体と心を護って欲しい!
見守る仲間たちは祈ることしかできません。
世代交代の瞬間は一瞬でした。
若き挑戦者はあっという間に玉座を奪ったのです。
全てが終わり、控室に戻った彼は燃え尽きたようにベンチに座り、「君は王者の中の王者だ」と呟きます。
今しがたまで王者であった自分自身の言葉、そして新たな若き王者への激励の言葉でもあるのでしょう。
これで彼はもう「普通の男」に戻れるのです。
チャンピオンであり続ける苦悩、引きずり落とされる恐怖から解放されたのです。
これが全て。彼のボクサー人生、全ての結果です。
もしかしたら、彼はこのために、こうなることを望んで最後のステージに挑んだのかもしれません。
王者の引き際、ケジメのために…。
これはアスリートだけの物語ではありません。
命がけで何かを成し遂げた人の最後の花道、ケジメの物語。
多くの“戦士たち”の心に響いたのでしょう。
アリス「チャンピオン」のモデルは誰?
“カシアス内藤”という名前のボクサーのことは、たぶんご存知ではないですよね?
実はその方こそ、この楽曲「チャンピオン」のモデルと言われている1970年代に活躍した伝説のボクサーです。
カシアス内藤はアメリカ人の父に日本人の母を持ち、高校時代からボクシングに熱中しました。
1970年に日本ミドル級チャンピオン、翌1971年1月には東洋ミドル級チャンピオン。
無敗のまま快進撃を続け、いずれは世界チャンピオンとの期待も膨らみます。
しかし、1971年7月に後に輪島功一を倒して世界チャンピオンとなる韓国の柳済斗に敗れ、初黒星を喫します。
そこから坂道を転がり落ちるように不調が続き、とうとう1974年一旦リングから姿を消します。
しかし、カシアス内藤は1978年に不死鳥のごとく復活し再び連勝し、かつての輝きを取り戻します。その栄光は長くは続きませんでした。
1979年8月に東洋ミドル級王座決定戦に挑むものの2回KO負け。
その年末には現役を引退しました。
カシアス内藤は世界チャンピオンにこそなれませんでしたが、元東洋ミドル級チャンピオン、最高位は世界ミドル級1位にまでなりました。
チャンピオンの曲は、カシアス内藤に感動したアリスの谷村新司が制作したとされます。
この曲の発売はカシアス内藤が復帰した1978年末。
実際カシアス内藤が現役を引退したのはそれから1年後のこと。
谷村はカシアスのボクサーとしての魂を讃え…。
そして、まもなく訪れる彼の最後の花道と“王者の引き際”を予期していたのかもしれませんね。
アリス「チャンピオン」の歌われた時代背景は?
アリス「チャンピオン」の歌詞は、漫画やアニメで有名な「あしたのジョー」も彷彿させます。
1968年1月~1973年5月まで連載された漫画「あしたのジョー」は大人気となり1970年4月~1971年9月にはTVアニメが放送となりました。
その人気の背景にはもちろん、日本のボクシング最盛期がありました。
カシアス内藤が、輪島功一がボクシング界に君臨し、アリスの「チャンピオン」が大ヒット。
その後、1980年10月〜1981年8月には続編のアニメ「あしたのジョー2」が放送になります。
主人公の矢吹ジョーはリングで闘い真っ白に燃え尽きます。
ジョーが死んだのか?生きているのか?
そのエンディングは永遠に謎となっています。
カシアス内藤と矢吹ジョー。1970年代のボクシング人気を牽引した功労者。
どちらも燃え尽きるまで挑んだ「チャンピオン」です。
まとめ
アリスの名曲「チャンピオン」の歌詞の意味を考察してみました。
アリスのグループとしての最初の活動は意外と短く約10年程。
その後、谷村はソロとして、堀内は演歌歌手として、矢沢は別のグループへと、それぞれの道へと進んでいきました。
3人が70歳となる2019年「70歳の限りなき挑戦」として題して久しぶりにアリスとして全国ツアーを行いました。
ちなみにモデルのカシアス内藤は暫くの間、自分が「チャンピオン」のモデルだとは知らず…。
カラオケで「チャンピオン」を唄おうとして、他人からそのモデルを知らされ驚いたとか!?
本人にしてみれば、とても共感できる十八番だったのでしょう。
それはそうです、アナタの物語ですから。
トップとは勝ち取ることも大変ですが、勝ち取った後も長く辛く苦しい戦いの日々なのでしょう。
おみくじで「大吉」でなかったとガッカリする事も多いですが、大吉だったらその上はありません。
もしも「凶」ならば…もう下がることはありませんからポジティブに運命を受け入れ日々精進しましょう。
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